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満月の夜 3

Auteur: 風野うた
last update Date de publication: 2026-03-04 17:59:09

 すっかり夜も更け、満月がヤドリギ横丁を明るく照らす。

 コンコンとノックの音がした。

 見習いのキュイは静かに扉を開く。フードを被ったアルフレッドが立っていた。静かに室内へと促し、扉を閉めてカギを掛ける。

「こんばんは、アルフレッドさま。ここへ来ることを誰かに見られたりはしていませんか?」

「こんばんは、占い師どの。心配には及ばない。念のため、皇宮の私室からドアの前まで転移してきた」

 アルフレッドは被っていたフード付きマントを脱いだ。すると、頭の上に可愛いモフモフの耳が……。

「えっー!?」

(頭にケモ耳がついてるー!? 殿下にこんな秘密があるなんて、私、全く知らなかったのだけど!? 今まで隠していたってことよね? それって、かなりの重要機密なのでは……??)

 レダは両手で口を覆う。驚きのあまり、つい叫んでしまったからだ。

「構わない。この姿を初めて見た者は驚くだろうからな。それに今夜は満月。おれを狼男だと勘違いしている馬鹿な奴らが犯行をより確実にするため、媚薬を盛るなどという愚策を考えたのだろうが……。わざわざ教えてはやる必要もないが、俺は銀狼ではなく、正しくは銀狐《ぎんこ》だというのに……」

「銀狐《ぎんこ》……、ぎんぎつね!?」

(え、待って!皇族に入っている魔族の血って、きつねなの? 嘘っ!? 本当に???)

 レダは初めて聞いた話をどう受け取ったら良いのか分からなかった。アルフレッドは目の前で老齢の占い師が動揺している様子を目の当たりにして違和感を持つ。

「占い師どのは、このことを知らなかったのか?」

「ええ、初めて知りました」

「そうか、父上からヤドリギ横丁の占い師レダ殿は皇家の秘密を知っているから大丈夫だと聞き、ここへ相談に来たのだが……」

 レダの背中に冷たい汗が伝う。アルフレッドのいう占い師レダ《師匠》は、今ここに居ない。いろいろと勘繰られないよう言葉に気を付けながら、レダは事情を話し始めた。

「アルフレッドさま、その占い師は先代かも知れません。私が弟子に入って直ぐに師匠は亡くなりました。そのため、私は皇家の秘密を存じません。また、今知った秘密は決して口外しないとお約束します。どうぞご安心くださいませ」

(レダのことを聞かれたら、死んだことにしたらいいって、キュイは言っていたけど……。こんな言い訳で、聡いこの人を納得させられるのかしら)

 レダの話を聞いたアルフレッドは眉間に皺を寄せ怪訝な表情になる。

「ということは、あなたは父上の知るレダどのではないということか。今、何歳だ?」

「この身なりで判断していただけるかと思いますが、それなりに高齢です」

「いや、おれの父上より若いのだろ。答えろ!」

 アルフレッドは一歩前に踏み出した。

 レダは思わず後退りしてしまう。チラリとキュイに助けを求めたが視線を逸らされた。

(もう!キュイの役立たず!! 安易に死んだなんて言い訳をしたせいで、殿下が変なところを追求してくるじゃない。こういう時は助けてよ!)

 レダの願いも虚しく、アルフレッドは一歩ずつレダへ近寄っていく。もう、壁に貼り付けられるのも時間の問題だ。

 ドンッ!

(うわっ、人生初の壁ドンが、まさか身代わり占い師をしている時だなんて……)

 壁に押し付けた後、アルフレッドはレダが目深に被っているローブを手でギュッと掴んで、一気に後ろへ引き下げた。

(あ~、マズイ……)

 レダとアルフレッドの視線がバチッと合う。互いに見詰め合ったままで、時が止まった。キュイは場の空気を読み、隣の部屋へそそくさと逃げ去る。

 沈黙を破ったのは、アルフレッドだった。

「カレン・マーレ・シュライダー侯爵令嬢、ここで何をしている?」

「お久しぶりですね、殿下」

 眉間に皺を寄せるアルフレッドへ、カレンはにこやかに挨拶をする。

(弱気はダメ。負ける……)

 真っ黒のおんぼろローブを身に纏い、キラキラと輝く金髪を靡かせてコバルトブルーの瞳で柔らかく微笑んでいる姿は違和感満載だった。しかし、今はそれどころではない。

「お久しぶりですね、じゃないだろう? 何故、君がこんなところで占い師をしているのかと聞いているんだ!!」

 壁ドンの体勢のまま、カレンに詰め寄るアルフレッド。カレンは『師匠!ごめんなさい!!』と心の中で謝り、アルフレッドに事情を話すことにした。

――――負けたのである。

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